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0018 その1「自己肯定感」|毎時間の教科指導において「自己指導能力」を身に付けさせる

1. 学習指導要領では「自己肯定感」をどのように示しているか

学習指導要領では「自己肯定感」1)という言葉を直接多用しているわけではありません。しかし、児童・生徒が自分を大切に思い、自分のよさを認め、主体的に学びに向かう力を育てることが、総則や各教科・特別活動の中で明確に求められています。

そのため、自己肯定感は「学びに向かう力・人間性等」の中核として扱われています。ここには、

  • 自分のよさを認める
  • 自分の成長を実感する
  • 自分の生き方を考える
  • 他者と関わりながら自分を大切にする

といった内容が含まれ、これは実質的に自己肯定感の育成を意味します。

東京都教育委員会の資料では、自己肯定感が低い児童・生徒は、学習意欲や友人関係に課題が出やすいことが示されています。また、自己肯定感を高めることは「自信」、「やる気」、「確かな自我の形成」につながると明記されています。
学習指導要領が重視する「主体的に学ぶ力」や「人間関係形成能力」と直結しているため、自己肯定感の育成は教育の基盤として扱われています。

また、教育再生実行会議(国の有識者会議)の第十次提言では、次のように述べられています。

  • 「諸外国に比べて子供たちの自己肯定感が低い現状を改善する必要がある」
  • 「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育が必要」
  • 「学校・家庭・地域が一体となって自己肯定感を育む環境づくりを行うべき」

と明確に記されています。
これは国の公式文書として、自己肯定感の育成が重要課題であることを強く示しています。

2. 毎時間の教科指導において「自己肯定感」を育てることの3つの意義

授業の中で「自己肯定感」を身に付けさせることは、児童・生徒がこれからの社会を生きていくうえで非常に重要です。
自己肯定感とは、「自分には価値がある」「自分はできる」という感覚のことであり、文部科学省も、この感覚を育てることが多様な社会を生き抜く力につながると示しています。学習指導要領においても、主体的・対話的で深い学びを実現するためには、児童・生徒が自分の良さを認識し、学びに向かう力を高めることが基盤になると強調しています。

授業の中で自己肯定感を育てることには、3つの大きな意義があります。

第1に、学習意欲が高まり、挑戦する姿勢が育つことです。自分に価値を感じられる児童・生徒は、失敗を恐れずに学習に取り組むことができます。文部科学省も、成功体験だけでなく「できるようになった過程」を振り返らせることが、学習意欲の向上につながると提案しています。

第2に、他者との関わりが豊かになり、学級での安心感が高まることです。自己肯定感が育つと、他者を尊重する姿勢も自然と育ち、授業での話し合いや共同作業が円滑になります。その結果、児童・生徒が安心して意見を出し合える学級づくりにつながります。

第3に、困難に直面したときの「折れにくさ」を支えることです。文部科学省は、自己肯定感を児童・生徒の「生きる力」を支える重要な要素として位置づけています。授業の中で小さな達成感や承認を積み重ねることは、将来の困難に向き合う力の土台となります。

3. 毎時間の教科指導においてなぜ生徒指導が必要なのか

児童・生徒にとって、学校生活の中心は授業です。児童・生徒一人一人に楽しくわかる授業を実感させることは教師に課せられた重要な責務です。ここに教科指導における生徒指導の原点があります。生徒指導は教科指導を充実したものとして成立させるために重要な意義を持っています。毎時間の教科指導において、生徒指導の機能を発揮させることは、児童・生徒一人一人が生き生きと学習に取り組み、学校や学級の中での居場所をつくることになります。

このことは、生徒指導上の課題を解決することにとどまらず、児童・生徒一人一人の学力向上にもつながります。また、児童・生徒一人一人に自己存在感や自己有用感を味わわせるとともに、自尊感情2)を育て、自己実現を図るという意義があります。

4. 「わかる授業」の成立や、創意工夫ある教科指導が、必要性を増している

教科指導が一層改善・充実すると、児童・生徒の学力向上につながる。教科指導における生徒指導としては、次のような2つの側面が考えられる。

一つは、教科指導における学習活動が成立するために、一人一人の児童・生徒が落ち着いた雰囲気の下で学習に取組めるよう、基本的な学習態度の在り方等についての指導を行うことです。

もう一つは、教科指導の学習において、一人一人の児童・生徒が、そのねらいの達成に向けて意欲的に学習に取組めるよう、一人一人を生かした創意工夫ある指導を行うことです。

前者は、一人一人の児童・生徒の学習場面への適応をいかに図るかといった生徒指導であり、後者は、一人一人の児童・生徒の意欲的な学習を促し、本来の教科指導のねらいの達成や進路の保障につながる生徒指導です。そして、生徒指導のねらいでもある社会的な自己実現や自己指導能力3)の育成にもつながります。

これまで教科指導における生徒指導というと、どちらかといえば、前者のことに意識が向きがちであったといえます。しかし、これからの生徒指導においては、後者の視点に立った、一人一人の児童・生徒にとって「わかる授業」の成立や、一人一人の児童・生徒を生かした意欲的な学習の成立に向けた創意工夫ある教科指導が、必要性を増しています。そのため教科指導に際しては、

  1. 児童・生徒に自己存在感を与えること
  2. 共感的人間関係を育成すること
  3. 自己決定の場を与え自己の可能性の開発を援助する

ことの3つの視点に留意する必要があります。
具体的には、一人一人の児童・生徒のよさや興味・関心を生かした指導や、児童・生徒がたがいの考えを交流し、たがいのよさを学び合う場を工夫した指導、一人一人の児童・生徒が主体的に学ぶことができるよう課題の設定や学び方について自ら選択する場を工夫した指導など、様々な工夫をすることが強く求められています。

教科指導は、単に授業における指導上の工夫ということにとどまらず、まさに積極的に生徒指導を行うことでもあります。したがって、これらの指導を行うことは、児童・生徒の自己肯定感を高めることやコミュニケーションの成立、よりよい人間関係の構築などにつながります。さらには、結果として、学習上の不適応からくる授業妨害や授業エスケープ等を軽減したり、より適正な学習環境をつくったりすることにもつながります。

  1. 自己肯定感
    自分の価値を評価する際に、自分のよさを肯定的に受け止める感情。 ↩︎
  2. 自尊感情
    できること・できないことを含む自分のすべての側面を、他者とのかかわりを通して「かけがえのない価値ある存在」として受け止める気持ち。
    ↩︎
  3. 自己指導能力
    日常生活のさまざまな場面で他者とかかわりながら、どのような選択が適切であるかを自ら判断し、実行し、その言動に責任を持つ力。 ↩︎

5. 毎時間の教科指導における生徒指導推進の3観点

教科指導において生徒指導を充実させ るためには、次の3観点から教師が指導力を一層発揮することが求められます。

(1) 教科の授業で、全ての児童・生徒に出番をつくる

教師は、児童・生徒がわかる楽しい授業を展開するよう努めるとともに、児童・生徒一人一人を深く理解し、授業の場での活躍の場をつくることが強く求められています。どの学級にも、学力や運動能力に差異が見られる児童・生徒、多様な種類の障害がある児童・生徒、日本語の不十分な外国籍の児童・生徒がいるなど、多様な児童・生徒が在籍しています。

教科指導に際して、教師はこれらの課題について正しい知識と認識をもち、児童・生徒一人一人の生活や学習における課題を把握し理解する必要があります。その上で、それぞれの課題解決の方策を工夫・改善するとともに、教科指導の中で児童・生徒一人一人のよさや得意分野を積極的に生かすようにすることです。

こうした指導によって、すべての児童・生徒が学習に対して充実感や達成感を味わい、自己理解を深めるようになります。自分に対する理解や認識を深めることは、将来の自分の在り方や生き方を考える際の基盤になるものです。

(2) 児童・生徒一人一人にわかる授業を行い、主体的な学習態度を養う

教師は、児童・生徒一人一人が学習の目標をもって意欲的に生き生きと授業に参加し、主体的な学習態度を養うように努める必要があります。より質の高い授業にするためには、児童・生徒が学習に対して自ら目標や課題をもち、自ら考え、自ら判断し、自ら行動しながら主体的に問題を解決していく能力や態度を育む必要があります。

そのためには、教える内容を効果的に習得させるための個に応じた指導や教材の開発と作成、発問や指示の構成などの指導方法を継続的に工夫・改善することが欠かせません。学級担任による指導が基本になっている小学校では、教科指導の中で生徒指導を行うことが比較的進めやすいが、教科担任による指導が基本になっている中学校や高等学校では、学級担任・学年主任や他教科の担当教師との連絡・連携が何よりも重要になります。

まず、校内や学年間で日常的に情報交換できる仕組みを確立する必要があります。一人一人の児童・生徒を見守り指導するという共通意識を全教職員で持ち、そのための体制をつくることが何よりも大切なこととなります。

(3) 授業において、共に学び合うことの意義を実感させる

教科指導において、児童・生徒一人一人が大切にされる授業を展開し、互いのよさや可能性を発揮できるようにする。学校や学級は、様々な友達と協力し合いながら共に学び合う集団です。児童・生徒に協同で学ぶことの意義を知らせ、学級やグループで協力して学ぶことの大切さを実感させたい。

また、学校は「小さな社会」だといわれています。一斉学習やグループ学習の場で、学び合う場を積極的につくことも必要です。一人一人の児童・生徒に学力をつけるためには、一人で学ぶ場だけでなく、みんなで学ぶ場を設けることが教科指導における生徒指導のポイントになります。

自分とちがった友達の見方や考えなどを認めたり、学習に遅れがちな友達やつまづいている友達を支えたりすることは、児童・生徒一人一人がたがいの違いを認め合い、たがいに支え合い、学び合う人間関係を醸成することにつながり、思いやりのある心や態度を形成することができます。

具体的には、「学習内容の習熟の程度に応じた学習」、「児童・生徒の興味・関心に応じた課題学習」、「補充的な学習」「発展的な学習など個に応じた指導」、「児童・生徒が主体的にとり組む学習活動(体験的な活動や作業的な活動、観察・実験や実習を伴う学習、問題解決的な学習など)」「協力し合う学習活動(話し合いや討論、共同作業、グループ学習)」などを積極的に取り入れる必要があります。

6. 毎時間の教科指導において「自己指導能力」を身につけさせるための視点

児童・生徒に自己決定の場や自己存在を与えたり、共感的人間関係を育成したりする場面として、行事や係活動、部活動などが想起されがちです。しかし、教師が「生徒指導に重点的に取り組んでいる場面」として最も多く挙げるのは「各教科の学習指導」です。

授業は学校生活の基本であり、長い時間 児童・生徒と向き合うことができ、わかる授業を通して信頼関係を築くことができるためです。

(1)【自己決定の場を与えることに関する手だて】
(自己決定とは、自分で決めて、実行するということ。)

① 児童・生徒が興味・関心をもち、主体的に学ぼうとするように、資料や教材提示の方法を工夫する。

② 思考場面や観察場面で、考えたり、観たりする視点を示す。

➂ 児童・生徒が主体的に学べるよう、個に応じた支援を行う。

④~⑩に「自己決定の場を与えることに関する手だて」を考えてみましょう。

(2)【自己存在感を与えることに関する手だて】
(自分は価値のある存在であるということを実感すること。)

① まちがった応答も大切にし、どんな発言もとりあげ、大切にする。

② 名前を呼んだり、目を見て話したり、児童・生徒に存在感をもたせる。

③ つぶやきを積極的に取り上げ、発表のチャンスを与える。

④~⑩に「自己存在感を与えることに関する手だて」を考えてみましょう。

(3)【共感的人間関係を育成することに関する手だて】
(相互に人間として無条件に尊重し合う態度で、ありのままに自分を語り、理解し合う人間関係。)

① よい姿をほめ、好ましくない姿は正すようにしている。

② たどたどしい発言でも言い終わるまで待ったり、的はずれの考えや意見のように思われても、熱心に聴く。

③ 間違った応答を笑わないように指導している。

④~⑩に「共感的人間関係を育成することに関する手だて」を考えてみましょう。

自己肯定感の育成は、学習指導要領の理念に深く根ざした教育の基盤です。授業はその実現の中心であり、教科指導と生徒指導を一体的に推進することが、児童生徒の学力向上と健全な成長を支えます。

文部科学省および国立教育政策研究所の提言が示すように、
①「わかる授業」②「認められる経験」③「共に学ぶ関係性」
の3つが揃うとき、児童・生徒たちは自らの価値を実感し、未来を切り拓く力を育んでいきます。

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