Q 中学校2年2組の学級担任になり, 大変嬉しかった半面,不安な気持ちになりました。学級担任とは,具体的にはどのような仕事を担っているのでしょうか。また,「学級経営案」は,どのような内容項目について書けばよいのでしょうか。(中学校教員 27歳 男性)
担任する児童・生徒との偶然の出会いを,心の触れ合う結び付きにまで深めるためには,学級担任としての努力が必要です。その努力を,どのようなところに,どのような形で払ったらよいかを具体的に考えて年間の計画を立てたものが「学級経営案」であり,それを実現していくことが学級経営です。
学級担任の仕事と「学級経営」
「学級経営」とは,「学校教育目標」の実現に向けて学級を効果的に組織し、運営することです。具体的には、学習指導や生活指導をはじめ、学級内の人間関係を築いたり、学級の物的環境の管理や整備を行ったりするなどの教育活動のことです。このため、学級担任は実に多様な仕事を担っています。以下はその概要です。
Example
①「学校教育目標」の実現を目指し, 学級において育もうとする児童・生徒像を明確にして,「学級指導目標」の実現のための具体的方策を立案する。
②「学級指導目標」の実現を目指し,学校の各種教育計画に従って,学級指導計画,さらに担当教科,総合的な学習の時間,道徳及び特別活動の指導計画を立案する。
③各種表簿,教育活動の中での観察,関係者の話などを通じて,児童・生徒の心身の特徴を把握し,望ましい人間関係の中で,児童・生徒の健全育成や学校生活の充実が図られるように心掛ける。
④児童・生徒一人ひとりの学力の特徴や傾向,得意教科や不得意教科,つまずきなどの実態を十分に把握し,適切な指導に努める。
⑤教室の物的環境の整備と管理に努め,児童・生徒が毎日の生活や学習活動をよりよい環境の中で行えるよう心掛ける。
⑥学級を経営する上で必要な事務的な作業を行う。具体的には,学習評価,諸表簿作成などの事務処理を行う。
⑦学級経営に関する保護者の理解を促し,連携を深めるために,学級通信の発行や懇談会,家庭訪問などを行う。
学級担任は,このような仕事を通して児童・生徒の指導に当たります。
「学級経営案」の作成と実践
(1)「学級経営案」は常に修正
「学級経営案」は,児童・生徒に対してよりよい指導ができるようにするために学級担任が作成する大切な計画書です。様式や項目は学校によって異なりますが,「学級経営案」は,学校教育目標を具現化するために,学級の1年間の教育をどのように行うかという基本方針を示すものです。「学級経営案」は作成して終わりというものではなく,実践を振り返って常に修正を加えることが重要です。
その内容構成としては,次のような項目が考えられます。
Example
①【校長の経営方針】
4月に校長先生が 語った方針から自分の学級経営で大切にしたい内容を抜粋し,学年目標や自分の学級経営へとつなげていく。
②【学年目標】
学校の教育目標,校長の経営方針を基に,学年の児童・生徒の実態や発達の段階を考慮して,学年の目標を設定する。
③【児童・生徒の実態】
4月の児童・生徒の様子を, 学校教育目標,校長の経営方針,学年目標に照らし 合わせながら,知・徳・体の視点から捉えた上で,学級の児童・生徒の実態を記入する。実態というと「課題」ばかりを気にする傾向があるが,認められる「よ い姿」も記入する。
④【学級経営方針】
学校の教育目標,学年目標,そして児童・生徒の実態を踏まえた上で,学級担任の願いとこだわりを知・徳・体の観点から方針を立てる。
⑤【学級目標】
学級担任としての方針を明確にし,児童・生徒の実態,保護者の学校に対する期待などを十分把握して設定する。
⑥【目指す児童・生徒像】
学級経営方針と学級目標に照らし合わせながら,知・徳・体のバランスを考えて設定する。その際,4月の時点での児童・生徒の実態や発達の段階を踏まえ,唐突で高度すぎるものにならないように注意する。
⑦【主な行事】
学級経営に大きく関連する学校行事を記入し,その行事をどう学級経営に生かすのかを記入する。
⑧【学級集団としての高まり】
1年間を5つの段階に分けて学級経営をしていく(3つの段階に分けて指導する考え方もある)。「4・5月:始動期,6・7月:成長期,8・9・10月:変革期,10・11・12月:充実期,1・2・3月:終末期」とし,その時々に集団としてどのような段階にあるのかを記入する。
学級集団として行事や日常活動を通しながら,5つの段階にどのような集団にしたいかを記入する。また,その集団になるために,学級担任としてどのような手立てを打っていくのかを記入する。一つの行事や一つの段階にも「始動・成長・変革・充実・終末」のステップがあり,特に変革期には停滞する時期があるため,その停滞に手立てを打つことで変革し,充実へとつながっていく。特に,停滞期に行う学級担任としての手立てを記入する。
⑨【学習習慣】
「聞く・話す」「ノート指導」「家庭学習」などの学習習慣を習得できるように,段階を経ながら指導する。特に,「聞く・話す」については,学校ごとの段階表や学年の段階があるので,その段階を踏まえた上で1年間のどの時期にどのように指導す るのかを意図する。
⑩【日常活動】
学級の係活動や日直などの活動,行事に向けての班活動など,その時期や行事に合わせて身に付けさせたい係活動の内容を記入する。
⑪【児童会・生徒会】
児童会・生徒会の取り組みやキャンペーンなどと学級活動をどうタイアップしていくのか,また,児童会・生徒会の行事とどうつなげて 学級の高まりを生み出すのかを記入する。
⑫【進路】
総合的な学習の時間や職場体験学習での進路学習,学級活動における進路学習など,その時期や行事に合わせてねらっている児童・生徒の意識や活動を記入する。
⑬【道徳】
特に,その月の重点項目を記入する。その重点項目とその段階で進めている学級集団の高まりとが関連していくように意図する。
⑭【家庭との連携】
PTA総会,学級懇談会,学級通信,家庭訪問など,その時々,その段階での家庭・保護者とどのような連携をとるのかを意図して記入する。
⑮【評価】
5つの段階が終わるごとに学級集団の高まりについて学級担任が自己評価し,計画の修正を行っていく。特に,学級目標については,節目ごとに児童・生徒にも評価させることを心掛ける。
学級経営に関する保護者の理解を促し,連携を深めるためにも,上記のような項目などを「学級グランドデザイン」としてまとめ,活用すると効果的です。
(2)「学級経営案」作成に当たっての留意点
①「学校教育目標」及び「学級経営方針」を十分に理 解し,学校・学年の目標や重点課題を受けて,学級の実態に即して目標や方針を立てます。
② 前の学年での学級担任との連絡や記録などにより,前任者の「学級経営方針」や指導の進め方などを理解しておきます。 ③ 同学年の学級担任との連携と,意志の疎通を図っておきます。
④ 教育課程の教科別目標や道徳,特別活動の目標,総合的な学習の時間のねらいなどを理解しておきます。
⑤ 特に,次の項目については,学級の児童・生徒の実態や学級の特色を把握します。
**Advice**
◇「身体・健康面の実態」は,個人や学級の特色・傾向を把握する。
◇「発達段階の実態」は,学級の傾向や学力との相関を把握する。
◇「学力の実態」は,より深く,動的に捉える。
◇「家庭の実態」は,家庭環境・通学路・習い事・ 進路希望・学校への要望などを把握する。
◇「学級集団の特徴」は,学級の傾向,特色を客観的に見つめ,児童・生徒の願いを把握する。
⑥ 各教科,総合的な学習の時間,道徳及び特別活動の指導の重点を明確にします。
⑦ 教室環境の整備・充実について,具体的な計画を立てます。
⑧ 家庭との連携の具体的方法を明らかにします。
⑨ 年間計画を基に,少なくとも学期ごとに反省し,改善が加えられるようにします。
学級経営をより望ましいものとするためには,児童・生徒と心を通い合わせることが必要です。そのためには,学年主任や他の学級,学年の教員,管理職などと情報交換したり,指導の相談をしたりするなど,一人ひとりの児童・生徒を多面的に理解するよう努め,そのよさを認め,励ますことです。
そして,学級担任と児童・生徒との信頼関係を深めながら,よい学級をつくっていこうとする姿勢を大事にすることです。