Q 小学校3年2組の学級担任になり、初めての保護者懇談会がありました。隣の学級では、活発な話し合いが和やかな雰囲気のうちに進められていましたが、私の学級では,保護者からの意見も少なく、沈黙した雰囲気の中で終わってしまいました。保護者との信頼関係を結ぶための基本を教えてください。
(小学校教員 23歳 女性)
児童・生徒の成長や学力の向上は,教師と保護者共通の願いです。この共通の目標に向かって,手を取り合って協力していく姿こそが教師と保護者の理想的な関係です。
保護者は皆,わが子が一番かわいいと思っています。そのわが子が教師に褒められることは,保護者にとってこの上もない喜びです。逆に,わが子の欠点ばかりを指摘 されれば,どの保護者も反発心をもつばかりです。たとえ,保護者が自分の子どもの欠点ばかり挙げるようなことがあっても,心の底には深い愛情が存在します。
こんなとき,教師の方から「Aさんには,こんなよいところがありますよ。こんな優れたところがありますよ」と,その子を認める言葉があれば,保護者は安心し,その教師を信頼することになります。
目次
保護者との信頼関係を結ぶための基本
(1)保護者との信頼関係を築くために
学校では,基本的な生活習慣の問題から不登校やいじめ問題など,児童・生徒指導に関わる多くの問題を抱えています。
Example
【小学校】
小学校では,保護者参加型の 学校行事が多く実施されるので,児童に 関する相談を受けたり要望を伝えたりと,保護者と接する機会が多くなる。それだけに,保護者とのパートナーシップを上手に育てていくことができれば,学級経営において,保護者がよき理解者,協力者として心強い存在になる。また,不登校やいじめ問題のほか,家庭でのしつけの欠如から生じた問題,発達障害の問題にいたるまで幅広い問題を抱えることも多い。とりわけ,発達障害をもつ児童の支援については,より綿密な保護者との連携が必要になる。
【中学校】
この時期には,小学校と同様の問題のほかに,いわゆる「中1ギャップ」と言われる不登校増加の問題,進路や部活動,あるいは非行などに関する問題も加わる。
その中でも,保護者の関心は生徒の進路に関することが中心になってくる。保護者の教師に対する期待は,生徒本人の進路に関する具体的で的確な情報や助言をもらうことにある。教師は,この期待に応えるべく,進路に関する豊富な知識をもつことはもちろんであるが,丁寧な面談を通して,生徒の希望を確かめ,さらにそれが適当かどうかを判断しておく必要がある。進路についての最終決定者は,生徒と保護者であることを忘れ,特定の進路先を強く勧めすぎ,反感を買うことのないようにしたい。
また,この時期は,生徒の非行などに関して,保護者と一体となって対応する必要がある。そのためにも,「家庭に問題がある」「育て方に問題がある」などのように,家庭に原因を転嫁するような言い方は絶対に避けなければならない。問題解決に際しては,学校と家庭が連携して対応しなければならず,そのために必要なことは互いの信頼関係である。
児童・生徒をよりよく育てていくために,教師が保護者と良好なパートナーシップを結びながら信頼関係を築いていくことは,何より大切なことです。
(2) 教師への信頼は,児童・生徒との信頼関係から
保護者の教師に対する信頼は,まずは児童・生徒の教師に対する信頼から生まれます。
Advice
◇教師が児童・生徒指導において一貫性に乏しく,その時々で指導に違いが生じ,児童・生徒との接し方に不公平感を感じさせるところがあれば,児童・生徒の教師に対する信頼感を失うことになる。そして,その思いは,児童・生徒の口から保護者に伝えられることとなり,ひいては保護者の教師に対する信頼感も失うこととなる。
(3) 児童・生徒との信頼関係は充実した授業から
教師が児童・生徒から信頼されるために大切なことに,「授業の充実」があります。
Advice
◇児童・生徒は,「分かりやすく勉強を教えてくれる先生」を求めている。教師は児童・生徒の願いに応え,授業に工夫を加え, 教材研究に励みながら,「難しいことを易しく,易しいことを深く,深いことを面白く」教えることが求められている。
(4) 日々努力する姿が,保護者との信頼関係を深める
保護者の理解を得,信頼関係を築いていくために大切なこととは,いったい何でしょうか。
Advice
◇最も大切なことは,「児童・生徒がよりよく育つために」という思いに基づく児童・生徒への接し方である。児童・生徒の成長や学力の向上は,教師と保護者の共通の願いである。
そして,教師が児童・生徒への深い愛情をもって日々努力する姿を見て,保護者はおのずから教師に対して理解と信頼を深める。
保護者との接し方の基本
(1) 誠意をもった対応
誠意ある保護者との接し方は,日ごろから第一に心掛けなければならないことです。例えば,保護者の都合を聞かずに家庭訪問や学校への呼び出しの日時を指定したり,保護者の思いを考慮に入れずに一方的に自分の考え方を押し付けてしまったりすれば,保護者からの信頼を得ることはできません。
Advice
◇誠意ある態度は,何事においても大切であるが,特に児童・生徒指導上の問題においては十分気をつけなければならない。「知らなかった」という責任回避,「B君の態度にも問題がある」という責任転嫁,迅速な対応が求められるいじめ問題などで,「長い目で見ると,これがCさんのためです」といった認識不足,「来年は入試ですし,調査書のこともありますから……」といった高圧的な姿勢などは,保護者の心情を逆なでし,信頼回復に多くの時間を費やすこととなってしまう。
(2) 重みのある教師の発言
保護者にとって教師の言葉,とりわけわが子に対する発言は,たった一言でも一喜一憂するような大変重みのあるものです。それだけに,教師は保護者を不安にさせたり,不満を感じさせたりするような発言を避け,保護者の立場に立った慎重な発言をしなければなりません。
Advice
◇例えば,情緒不安定な児童・生徒の保護者に対して,「D君は最近,言動にちょっと心配なところがあるので,心療内科を受診してはいかがですか」とか「D君はADHD(注意欠陥多動性障害)ではないですか」と伝えてしまったことで,保護者とのトラブルになってしまうケースがある。もちろん,教師としては児童・生徒のこと を心配した上での発言であるが,保護者の中には病院へ行くことや,具体的な障害名を告げられることに抵抗を感じる方もいる。「教師は医師ではないのに,いったい何が分かる」と逆鱗に触れる場合もあるので,発言には十分に配慮する必要がある。
(3) 保護者によって立場の異なる教育観
社会の価値観の多様化に伴い,保護者のわが子に関する学校や教師への期待もさまざまです。
Advice
◇「学習第一」の家庭も「健康が一番」の家庭もある。それぞれの家庭でそれぞれの子育ての考え方があるように,保護者の学校教育に関する教育観は多様である。教師は,保護者懇談会や家庭訪問の機会を利用して,保護者がどのような考えをもっており,学校や担任に何を求めているのかを知り,理解する必要がある。
(4) 保護者の努力を認める
教師の目から見て,どんなに問題のある児童・生徒でも,保護者はさまざまな努力を重ね,これまで子育てをしてきたはずです。
Advice
◇保護者に家庭での児童・生徒との接し方について何かを求める場合でも,まずはこれまでの努力を認めてからにする。ましてや,「親の育て方に問題があった」的な発言は,保護者に大きな不信感を呼び起こす。何よりも保護者の気持ちに立った配慮が大切である。保護者を責めてばかりでは,保護者の協力は得られない。
(5) 保護者とのなれ合いと迎合の回避
児童・生徒を通して,教師と保護者とが心を通わせ,互いに信頼感をもつことは大切なことです。
Advice
◇特定の保護者となれ合いになってひんしゅくを買わぬように注意する必要がある。教師と保護者が協力して教育に関わることは大切なことであるが,それは保護者への「迎合」を意味するものではない。保護者からの学校や教師に対する要求は,必ずしも建設的なものばかりとは限らない。その場合には,毅然とした態度で断ることも大切である。