Q 教師になり3年目です。初めて小学校6年2組の学級担任になりました。「落ち着いて学習に取り組める教室掲示」のポイントは,どのようなことでしょうか。また,「児童のよさや歩みが息づく掲示」「居心地のよい掲示」の留意点についても教えてください。 小学校教員27歳 男性
教室掲示は,常に情報が送られている状態にあるため,メッセージ性が深化・強化されやすく,児童・生徒への影響力が大きいものです。学級目標,児童・生徒一人一 人の目標などのように,目指す方向性や達成したい目標を常に目にすることによって,共通理解が図られ,意欲が高まります。
また,児童・生徒の作品に教師からの温かい言葉が添えられ,常に身近にあると,自己肯定感や所属感が高まります。児童・生徒のよさや活動が位置付けられ,充実感が感じられる居心地のよい掲示を心掛けたいものです。
1.落ち着きのある教室掲示
教師の意図的・計画的な指導の下,PDCAサイクルを大切にした活動を行い,児童・生徒一人一人の成長や学級の高まりなど,取り組みの過程が見える歩みを掲示 することが大切です。児童・生徒の立場に立って,意味ある掲示物とは何かを吟味することが何よりも重要なことです。
落ち着いて学習に取り組める教室掲示にするためには,大きく次の3つが必要です。
◇落ち着いて学習に取り組める教室掲示の3つのポイント
①明るく,落ち着いた色調で,統一感がある。
【色を統一して,学級内に統一感を】
壁の塗料と同系色を使うと,まとまりのある感じになり,落ち着いた印象になる。また,壁や台紙を生かすように余白を多めにとって掲示物を貼ると,すっきりした感じになる。
【色を絞り,明るい色調で統一】
学級の色調をベースとして一つの色を決め,その色の明度の高い色,柔らかい色調の色で構成すると統一された雰囲気になり,部屋に落ち着きや明るさが生まれる。赤・黄・青色など,多くの色相を使った掲示物は統一感に欠け,落ち着きがない雰囲気になる。赤やオレンジなど,鮮やかな暖色系は交感神経に作用し,血圧や脈拍を上昇させ,落ち着きを失わせる。一方,寒色系は,心を落ち着かせ,集中力を増す色と言われている。学級目標に多くの色を使うのはかえって逆効果で,色弱者への配慮からも望ましくない。目立たせたいときはポイントを1カ所に絞り,赤などを使うと効果的である。
②窓や廊下側の欄間などに掲示物がなく,風通しがよく,明るい。
【健康面に配慮し,風通し,採光を大事に】
窓や廊下側の欄間などに掲示物を貼ると,風通しが悪くなり,室内が暗くなるので,掲示は避ける。
【興味・関心を高めるため,必要なものだけを貼る】
前の月の学級通信や,本時に関係のない教科の資料など,長い間貼りっぱなしの掲示物は,児童・生徒の新鮮な興味・関心を失わせる。また,教室の前面や黒板に余分な掲示物があると,落ち着きも失わせる。さらに,視覚刺激に対して過敏な児童・生徒は集中できなくなる。とりわけ小学校では,教科に関わる掲示物は必要 なときに必要なものを貼って,すっきりとした環境にすることが大切である。一方,中学校では,教科ごとに必要な資料を貼るスペースをつくるとよい。
③ピンと貼られた掲示物
【掲示物をピンと貼ることによって緊張感や興味・関心を生み出す】
掲示物の四隅が丸まっていたり,隅が切れていたり,たるんでいたりすると,それだけで雑然とした雰囲気になる。たるみがなく,ピンと貼られた掲示物は,「見てみよう」という気持ちにさせるだけでなく,緊張感をもって教育活動に向かおうという雰囲気をも生み出す。また,掲示物の貼り方一つにも気を配る教師の感性は,緊張感ある集団を生み出すことになる。
【掲示を通して,公共の財産を大切に扱うことを教える】
セロテープを使うと壁やスチールの塗料がはがれ,汚くなる。また,教室や備品を大事にするという意味を教師が自覚し,児童・生徒にも指導する。
【作品を大切に扱う】
作品を画びょうで直接留めると 作品に傷が付くことがある。台紙に貼って台紙の部分を画びょうで留めたり,つないだりすると,傷を付けずに掲示することができる。
2.児童・生徒のよさや歩みが息づく掲示
児童・生徒の成長の足跡が,具体的に目に見える形で位置付けられていると,児童・生徒自身がこれまで取り組んできたことの成果を確認し,喜びや自信を持ち,所属感を味わうことができます。
学校行事や活動など,学級目標と連動して,自分のよさや成長が実感できるような,一人一人の児童・生徒にとって意味のある掲示内容にしたいものです。児童・生徒のよさや歩みが息づく掲示にするためには,次の2つが必要です。
◇児童・生徒のよさや歩みが息づく掲示の2つのポイント
① 作品に教師の温かい認めや励ましの言葉を記入
児童・生徒の作品(図工・美術,書写,作文など)を掲示する場合は,教師の温かい認めや励ましの言葉を添える。その結果,自分の頑張りやよさが認められているという喜びや充実感を与え,「先生は,自分のことをよく見ていてくれる」という信頼感を生み出す。児童・生徒の大事な作品には,朱書き用紙に記入して貼るとよい。児童・生徒の作品に直接書き込むことは避ける。
②「人権コーナー」などの設置
児童・生徒の人間関係を深め,安心して生活や学習ができる学級づくりに努めることが大切なことである。例えば,教室前面に学級目標を掲示し,それを児童・生徒の自画像で囲むなどして,一人一人の帰属感を高める。「人権コーナー」を設置し,児童・生徒がいじめや差別のない人権が尊重される学級づくりの必要性について考えることができるようにする。また,「今日の誕生日」「私の好きな言葉」コーナーなどを設け,児童・生徒の相互理解や交流を深めるきっかけとする。
3.児童・生徒にとって居心地がよい掲示
掲示物に工夫があり,そこに児童・生徒の歩みが見られる教室は,明るく,生き生きとした雰囲気になり,居心地がよい学級となります。逆に,掲示物の色や形に工夫のない場合は,活気や落ち着きを失わせ,児童・生徒が教室を好まなくなります。掲示は一つの「作品」として捉えます。児童・生徒にとって居心地のよい掲示にするためには,次の2つが必要です。
◇居心地のよい掲示にするための2つのポイント
① 掲示を「作品」にするための工夫
【丁寧な文字】
児童・生徒にレタリングを教えたり,下書きの枠線や輪郭線を引いてから書くように指導すると,美しい掲示ができ上がる。
【タイトルの書体や大きさを揃え,統一感を持たせる】
タイトルは同じ大きさでゴシック体でそろえるといった規則性があると,統一感が生まれる。
【色の工夫】
グラデーションを利用する。台紙と同系色の色を使ったり,同系色の紙を薄い色から濃い色へ順に重ねたりするなどの工夫をすると,美しくまとまった感じになる。また,同系色の中に,1点だけ反対色(補色)を使うと,変化のある美しさが生まれる。
【形の工夫】
掲示物は,とかく直線ばかりの構成になりがちである。紙の角を丸く切り取って処理するなど,直線と曲線を組み合わせるだけで変化や柔らかい感じが生まれる。また,鳥や花,音符などの丸みのある形をアクセントとして使うのもよい。
②意図性がある掲示内容にする
ただ写真を貼り付け,空いているスペースを埋めていくような掲示物には魅力がない。教師の願いや意図が込められている掲示が,よい掲示につながる。例えば,顔写真を貼る場合,4月の顔と9月の顔を並べて貼って,その成長を確かめ合う,といった意図で行うと,掲示をする意味が生まれる。
4.教室掲示のレイアウト
児童・生徒が落ち着いて学習に取り組み,学級の中で所属感を持って生き生きと活動するためには,教室の掲示を工夫することが大切です。教室掲示のレイアウトは,教室を大きく3つに区切り,「教室前面」「教 室側面」「教室背面」から考えることが必要です。
◇教室を鳥瞰図としてとらえ,教室全体のバランスをとることがポイント
【教室前面】
学級生活の基本となるもの,常に見る必要があるものや,常に意識した方がよいものなどを中心に掲示する。学習に専念できるよう,必要最低限のものだけを掲示し,すっきりさせる。黒板には多くを掲示せず,板書が際立つように配慮する。
【教室側面】
児童会,生徒会に関するものを中心に,動きのある掲示にする。より質の高い生活を目指して活発な取り組みが行われ,絶えず児童・生徒の手によって掲示が更新されることが大切である。
【教室背面】
学級活動の意義を高める内容を中心とし, 各係で工夫したものを掲示する。学級の歩みは,単に活動を紹介するのではなく,学級目標や特別の教科道徳の時間との関連から,そこで得た価値観をキーワードで表し,児童・生徒の成長を具体的に価値付ける内容にするとよい。また,一人一人の名前が位置付けられ, 教師の認めや励ましの朱書きがされた掲示であることは,一人一人が学級に所属し大切にされている証となる。
