Q 教師になって3年目です。希望がかなって小学校6年2組の学級担任になりました。「望ましい集団活動」をつくっていくための教師の働き掛けについて教えてください。また,学級のきまりや約束を児童・生徒に共有させるための教師の働き掛けについても教えてください。
(小学校教員 27歳 女性)
「望ましい学級集団」と言われると,「児童・生徒が意欲的に活動する学級」「児童・生徒一人一人の居場所がある学級」「誰かが困っていたら助け合える,思いやりのある学級」などを思い浮かべます。このように,児童・生徒一人一人が楽しく過ごし,自分のよさや可能性を伸ばしていくことのできる学級をつくっていくことが,学級担任には強く求められています。
目次
「望ましい集団活動」をつくっていくための教師の働き掛け
人間は,所属する集団における人と人との関係の中で人間形成を図っていくという側面があります。したがって,児童・生徒の成長は,所属する集団の人間関係がどのようなものかによって大きく左右される場合が少なくありません。
所属する集団の人間関係が望ましいものでない場合には,例えばいじめなどに見られるように,一部の児童・生徒が排斥されたり,不登校のきっかけになったり,児童・生徒一人一人のよさが十分に発揮されなかったりするなどの問題が生ずることもあります。
『小学校学習指導要領解説特別活動編』、『中学校学習指導要領解説特別活動編』には,「望ましい集団活動」の一般的な条件が6つ示されています。
Advice ◇「望ましい集団活動」であるための6つの条件
①活動の目標の共有
活動の目標を全員でつくり,その目標について全員が共通の理解をもっていること。
②話し合いと協力による実践
活動の目標を達成するための方法や手段などを全員で考え,話し合い,それを協力して実践できること。
③役割分担と振り返り
一人一人が役割を分担し,その役割を全員が共通に理解し,自分の役割や責任を果たすとともに,活動の目標について振り返り,生かすことができること。
④心理的な結びつき
一人一人の自発的な思いや願いが尊重され,互いの心理的な結び付きが強いこと。
⑤所属観・連帯意識の醸成
成員相互の間に所属感や所属意識,連帯感や連帯意識があること。
⑥認め合う人間関係
集団の中で,互いのよさを認め合うことができ,自由な意見交換や相互の関係が助長されるようになっていること。
①~③のように,児童・生徒が,「目標づくり」→「話し合いと実践」→「役割遂行と振り返り」という活動の流れを意識できるようになると,自分たちで活動が進められるようになり,主体的な活動が促されていく。望ましい集団活動を行うためには,児童・生徒に活動の方法を教え,自分たちで活動できる自主的,実践的な態度を養っていく必要がある。
まず,④の条件のように,自分の思いを出すことができ,それを受け止めてもらえる人間関係があり,一人一人が安心して活動できることが大切になる。
そして,⑤の条件のように所属感や連帯感を感じることができるようになり,さらには,⑥の条件のように一人一人のよさが認められ,発揮できることへとつながっていく。このような6つの条件を満たすように学級経営を行っていくことが,望ましい集団をつくっていくことになる。
そのためには,教師が児童・生徒の活動を支援していくことが大切であるが,教師の介入が多くなりすぎると,児童・生徒が人間関係をうまく築けないこともある。したがって,教師の介入が多くなりすぎないように,児童・生徒の自主的,実践的な活動のスパイラルをつくっていくことが大切である。自主的,実践的な活動の中で,児童・生徒は,望ましい人間関係を築いていくことができる。望ましい人間関係が築かれることで,自主的,実践的な活動もまた活発になっていく。
さらに,望ましい集団活動を行っていくためには,「学級のきまりや約束を学級のみんなで共有し,守られた状態を保つこと」が必要になる。
きまりや約束は,ときに児童・生徒を縛り付けるものとして捉えられることがある。しかし,学級にきまりや約束がなければ,学級としてまとまることはできない。人が集まれば,一定のきまりや約束が必要になる。そこで,人間関係を円滑にしたり,よりよい学級集団をつくっていくためには,きまりや約束は必要であるという思いを児童・生徒がもてるようにすることが大切である。
学校不適応児童・生徒や自己肯定感に配慮した支援をするためには,これら6つの条件は「安心感のある集団づくり」の指針として非常に有効である。
学級のきまりや約束を児童・生徒に共有させるための教師の働き掛け
新しい学級が始まる4月は,児童・生徒も気持ちを新たに「よし,頑張るぞ」という意欲が高まる時期です。この時期に気持ちよくスタートが切れるように,学級担任として一定の方向付けをしていく必要があります。授業規律や人間関係をつくっていくための「約束事」については,担任としての考えを示し,誰かが困っていたら助け合える学級で,安心して生活や活動ができるようにすることが大切です。
新しい学級では,大切にしたいきまりや約束に対する意識の持ち方が,児童・生徒おのおので違っています。学級担任として,前の学年・学級で積み上げてきたものや,学校で大切にしてきたことを踏まえ,改めてどのような学級にしたいのか,よりよい学級にしていくためにどのようなきまりや約束が必要なのかということを児童・生徒と共に考え,早い段階で学級のきまりや約束をつくっていくことが大切です。
特に小学校では,文化や習慣の違うさまざまな幼稚園や保育園から児童が集まってきます。中学校でも,複数の小学校から生徒が集まってくる場合は,きまりや約束を丁寧に教えていく必要があります。学級のきまりや約束を児童・生徒に共有させるための教師の働き掛けには,次の2つが必要です。
Advice ◇きまりや約束を共有させるための2つのポイント
①きまりや約束は,守っていく必要があるという目的をもたせる
きまりや約束は,「よりよい人間関係をつくっていくため」「よりよい成長をしていくため」に存在している。きまりや約束を守ることは手段であって,守ることが目的にならないようにしなければならない。そのために,学級目標や活動目標を常に意識することができるように配慮する。目標に向かって成長していくために,きまりや約束を守っていく必要があるという目的をもたせることが大切である。
②きまりや約束は,教師が示す
児童・生徒にきまりや約束を共有させていくためには,まず,教師が「きまりや約束を示す」ことが必要である。学級目標に向かって成長していくためには,どのようなきまりや約束が必要かを考え,児童・生徒に分かるように示していくことが大切である。教師がきまりや約束を明示するときのポイントは次の3つである。
【きまりや約束は,行動目標で示す】
きまりや約束を,児童・生徒の行動目標(「~しよう」という形)で表す。禁止事項(「~してはいけない」)が多くならないようにする。しかし,発達段階や学級の実態によっては,禁止事項で表す方が児童・生徒にとって分かりやすくなることもある。また,いじめや命に関わることなど,絶対にしてはならないことは「ならぬものはならぬ」と示し,指導していかなければならない。
【やり方を変える場合は,児童・生徒が慣れるまで丁寧に説明する】
学級担任が変わると,学級のきまりや約束も変わることがある。学級のきまりや約束について,教師間で共通理解はしているものの,それぞれの教師の持ち味によって,細かい約束事が違ってくる。
小さな約束事の違いが,児童・生徒にとっては大きな違いとして感じられ,それがストレスとなって不満として現れることもある。児童・生徒は当然理解しているものとして教師が説明を怠れば,そこにとまどいを感じる児童・生徒も出てくる。やり方を変える場合は,児童・生徒が慣れるまで丁寧に説明する。また,児童・生徒がこれまで行ってきたやり方を尊重することも大切なことである。
【きまりや約束は,実際に確認しながら説明する】
一度説明したからといって,児童・生徒がすぐにできるとは限らない。むしろ,できないことの方が多い。できない児童・生徒は,理解していないためにできないことが圧倒的に多い。また,実際に何度かやってみないと,きまりや約束に沿って行動することが難しい児童・生徒もいる。
このような状態のときに叱っても逆効果である。低学年ほど,丁寧な説明が必要である。言葉での説明に併せ,その状況を再現しながら説明していくと,児童・生徒が具体的にイメージをもつための手立てになる。
学級のきまりや約束について,児童・生徒が日常的に意識できるようにするためには,教師が粘り強く働き掛けていくことが必要です。そのとき,「なぜ守らないといけないのか(認知面)」「どのようにしたら守れるのか(行動面)」「守る(守らない)とどのような気持ちになるのか(感情面)」について,バランスよく働き掛けることが大切です。
きまりや約束の意義を知ることで,重要であると認識することができ,行動の仕方を学ぶことで,きまりや約束に沿った行動ができるようになるからです。そして,守ったとき,どのような気持ちになるのかを考えることで,きまりや約束を守ろうとする気持ちがさらに高まります。
