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0020 教師の言葉遣い|子どもを見つめ、言葉で育てる先生

1. 先生という仕事は、子どもの人生に寄り添う営み

教師の役割は、教科を教えることだけではありません。日々の関わりを通して、子どもたちの心の動きや成長に寄り添い、ときには人生の方向さえ変えてしまうほどの影響を与える営みです。だからこそ、教室に立つときには「この子の力になりたい」という思いを大切にしたいものです。

教育の世界でよく使われる「子どもを見つめぬく」という言葉は、単に「よく見る」という意味ではありません。表情や言葉、行動の奥にある「心の声」を感じ取ろうとする姿勢そのものです。経験の浅い先生ほど、忙しさの中で子どもの外側だけを追いかけてしまいがちですが、教育の本質はいつも「子どもの内側」にあります。

2. 子どもの内面を見つめるということ

子どもの「見える姿」だけでは、本当の姿を捉えることはできません。明るく振る舞っていても、不安や孤独を抱えていることがあります。反抗的な態度の裏に「助けてほしい」というサインが隠れていることもあります。

国の調査では、悩みを相談できずに一人で抱え込む子が約3割いることが示されています。特に思春期には、

  • 誰にも知られたくない
  • 弱い自分を見せたくない
  • 相談するのが恥ずかしい

といった気持ちが強まり、周囲からは気づきにくくなります。

だからこそ先生には、

  • 表情の小さな変化に気づく
  • いつもと違う行動を見逃さない
  • その子が歩んできた背景に敬意を払う
  • 一人ひとりに丁寧に関わる

といった姿勢が求められます。

学習指導要領は「一人一人のよさや可能性を伸ばす指導」を重視しており、そのためには子どもの内面を理解することが欠かせません。国立教育政策研究所(国研)も、子どもの言葉や行動の背景を読み取る教師の感受性が、学級の安心感や学習意欲に影響すると指摘しています。各都道府県教育センターの報告書でも、子ども理解の基盤として「観察・記録・対話」の重要性が繰り返し示されています。

子ども理解の出発点は、特別な技術ではなく「こだわること」です。「この子のことを知りたい」という思いから始まります。

  • なぜこの行動をしたのか
  • どんな気持ちでこの言葉を発したのか
  • 家庭ではどんな表情を見せているのか
  • どんな友達関係の中で生きているのか

こうした問いを持ち続けることが、子どもを見つめぬく姿勢につながります。

文部科学省が2023年にまとめた「COCOLOプラン」(後述)は、不登校の子どもを含むすべての子どもの学びを保障するための国家的な取り組みでは、子どもの内面を把握するために「総合質問紙調査」など、エビデンスに基づくツールの活用が示されています。観察や面談だけでは見えない部分を補う手がかりとなり、教師にとっても心強い支援になります。

3. 先生の言葉が、学級の空気をつくる

言葉は文化をつくり、子どもを育てると言われます。学級の雰囲気を左右する大きな要素の一つが、先生の「言葉」です。

全国の調査では、いじめが多い学級ほど子どもたちの言葉遣いが荒れている傾向が示されています。その背景には、教師の言葉遣いが子どもに「写る」という現実があります。

■ 先生の言葉は、子どもに写る

先生が「やばい」「めんどくさい」と言えば、子どもも自然と同じ言葉を使うようになります。一人が使い始めると、学級全体に広がるのはあっという間です。逆に、落ち着いた言葉や丁寧な言い回しを使う先生のもとでは、子どもたちもその雰囲気に染まっていきます。

まさに「霧の中を歩けば、知らないうちに衣がしめる」という言葉のとおりです。

■ 先生同士の言葉遣いも、子どもは見ている

先生同士が「〇〇先生」と呼び合う文化は、学校の秩序を守る大切な仕組みです。子どもたちは大人の姿をよく見ています。教師同士の言葉遣いが整っている学校は、全体の空気も落ち着いていきます。

■ 言葉は、子どもの心を育てる「環境」

言葉は単なるコミュニケーションの手段ではなく、子どもの心を育てる「環境」そのものです。

  • 優しい言葉は、子どもの心を開く
  • 丁寧な言葉は、思考を整える
  • 落ち着いた言葉は、学級の空気を安定させる

先生の言葉は、子どもたちの未来の言葉遣いにもつながっていきます。

4. 子どもを見つめ、言葉で育てる先生に

子どもを見つめ、言葉で育てる先生になるために大切なことは、とてもシンプルです。

  • 子どもの内面に目を向ける
  • その子の背景に敬意を払う
  • 先生自身の言葉を大切にする

この3つがそろうと、学級は驚くほど安定し、子どもたちは安心して成長していきます。

子どもは、先生のまなざしや言葉から多くを学びます。だからこそ、「子どもの力になりたい」という思いを大切にしながら、日々の言葉かけや関わりを丁寧に積み重ねていくことが、教育の本質につながります。

学習指導要領は「一人一人のよさや可能性を伸ばす指導」を求めています。また、国立教育政策研究所も「教師の言葉や関わりが学級の雰囲気をつくる」と指摘しています。つまり、教師の言葉は単なるコミュニケーションではなく、子どもの心を育てる大切な「環境」そのものなのです。


COCOLO(Comfortable, Customized and Optimized Locations of learning)プランは、快適で、個別最適化された、最適な学びの場所の頭文字から取られています。

文部科学省が2023年3月にまとめた不登校対策で、「すべての子どもが安心して学べる環境をつくる」ことを目的とした国の総合的な方針です。不登校が過去最多となる中、従来の「不登校になってから支援する」形ではなく、予防・早期発見・多様な学びの保障を重視している点が特徴です。

1. COCOLOプランの3つの柱

文部科学省は、次の3つを中心に不登校対策を進めています。

① 不登校の児童・生徒すべての学びの場を確保する

  • 校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム等)の設置
  • 「学びの多様化学校」(旧:不登校特例校)の全国整備
  • ICTを活用したオンライン学習の充実
  • フリースクール等との連携強化

→ 子どもが「学びたい」と思ったときに、いつでも学びにアクセスできる環境を整える。

② 心の小さなSOSを見逃さず、「チーム学校」で支援する

  • 1人1台端末を活用した健康観察・相談アプリ
  • 心の状態を把握するアンケート(学校風土の把握ツール等)
  • スクールカウンセラー・SSW(スクールソーシャルワーカー)・養護教諭など専門職との連携
  • 保護者支援の強化

→ 子どもの変化を早期に捉え、学校全体で支える仕組みをつくる。

③ 学校の風土を「見える化」し、安心して学べる学校づくり

  • 授業満足度・安心感・人間関係などを可視化するアンケート
  • 校則の見直しや、温かい学校環境づくり
  • いじめ・叱責など「学校ACE(逆境体験)」の予防
  • 子どもが主体的に参画する学校づくり

→ 子どもが安心して過ごせる学校風土を整えることが、不登校予防の基盤になる。

2. COCOLOプランが必要とされた背景

① 不登校児童生徒が過去最多

  • 小・中学校の不登校は約30万人(2022年度)
  • 10年連続で増加

② 3〜4割の子どもが相談・支援につながっていない

  • 学校内外で支援を受けていない子が多数

➂ いじめ・友人関係・学校風土が不登校の大きな要因

  • 子ども自身の調査では、友人関係の悩みが不登校のきっかけとして多い

3. COCOLOプランの意義

COCOLOプランは、従来の「不登校になってからの支援」中心の政策から、
①予防 → ②早期発見 → ③個別支援
という流れを重視する点で大きな転換を示しています。

これは、教育心理学で重視される RTIモデル(3層支援モデル)と一致しており、

  • Tier1:学校全体の予防的支援(学校風土の改善)
  • Tier2:初期のつまずきへの支援(SOSの早期発見)
  • Tier3:個別最適な支援(学びの場の確保)

という構造で整理できます。

4. 教師にとってのポイント

COCOLOプランは制度改革だけでなく、教師の子ども理解・言語的感受性・学級経営の質とも深く関わります。

  • 子どもの小さな変化に気づく観察力
  • 子どもの内面を丁寧に言語化して受け止める姿勢
  • 学級の安心感を高める言葉かけ
  • データ(アンケート・質問紙)を活用した学級改善
  • チーム学校としての連携

これらは、学習指導要領が求める「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現にも直結します。

COCOLOプランは、不登校を「特別な子の問題」とせず、すべての子どもが安心して学べる学校をつくるための国の総合的な方針です。

その中心には、

  • 子どもの内面を理解すること
  • 学校風土を改善すること
  • 多様な学びの場を保障すること

が据えられています。

(1) 学校ACE(逆境体験)とは

学校の中で子どもが経験する「逆境体験(Adverse Childhood Experiences)」 を指す言葉です。
もともとACE(エース)はアメリカの研究で使われた概念で、家庭環境のストレスやトラウマが子どもの発達に大きな影響を与えることを示したものです。その考え方を学校に応用したのが 「学校ACE」 です。

(2) RTIモデル(3層支援モデル)とは

RTI(Response to Intervention)モデルとは、子どもの困りごとに対して「早期に気づき、段階的に支援する」ための仕組みです。アメリカで生まれた教育支援モデルで、日本でも不登校対策・学習支援・行動支援などに応用されています。

RTIは、支援を3つの層(Tier)に分けて考えます。

Tier1:すべての子どもへの支援(予防)

学級全体に行う、予防的な支援です。

  • 安心できる学級づくり
  • 分かりやすい授業
  • 学習規律やルールの共有
  • 学級風土アンケートなどで状態を把握
  • 教師の言葉かけ・関係づくり

ここが整うと、不登校や学習のつまずきの多くが予防できる。学習指導要領が求める「協働的な学び」「学級経営の充実」は、このTier1にあたります。

Tier2:つまずきが見られる子への支援(早期対応)

「気になる変化」が見られた子に対して行う、小集団・短期的な支援です。

  • 個別面談
  • 学習の補充指導
  • 相談しやすい環境づくり
  • 行動の記録・観察
  • 保護者との連携

早い段階での気づきと対応が、深刻化を防ぐ。
国研が強調する「子どもの言葉の背景を読み取る力」も、この層で重要になります。

Tier3:特に支援が必要な子への個別支援

不登校・強い不安・学習困難など、より専門的な支援が必要な子への対応です。

  • スクールカウンセラー、SSW、医療・福祉との連携
  • 個別の教育支援計画
  • 校内教育支援センター(スペシャルサポートルーム)
  • ICTを活用した学びの保障
  • フリースクール等との連携

学校だけで抱え込まず、チーム学校で支える段階。
COCOLOプランの「多様な学びの場の確保」「学校外との連携」は、このTier3に位置づけられます。

■ RTIモデルのポイント

  • 困りごとが大きくなる前に気づく
  • すべての子をTier1で支える
  • 必要に応じてTier2・Tier3へ段階的に支援を広げる
  • データ(アンケート・観察・質問紙)を活用する
  • 教師一人で抱え込まず、チームで支える

学習指導要領が求める「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、まさにRTIの考え方と一致しています。
RTIモデルとは、予防 → ②早期発見 → ③個別支援という流れで子どもを支えるための、分かりやすい3段階の枠組みです。

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