Q 学校研究を進めるため、研修主任として東京で開催された研修会に参加しました。講師の先生からは、「教師が『確かな学力』を正しく理解し、毎時間の授業で育てることが極めて重要である」というお話がありました。そこで、
・なぜ今「確かな学力」が必要なのか
・「確かな学力」とは何を指すのか
・そして、それを毎時間の授業で育てるためにはどのような工夫が必要なのか
について教えてください。
中学校 主幹教諭 41歳 男性
「確かな学力」とは、単に知識を覚えることではありません。子どもたちがこれからの社会を生き抜くために必要な、確かな学力を構成する8つの力の総体です。この8つの力を、授業の中でどう育てていくのか。そして、なぜ今、それがこれほど重視されているのか。その理由を、法令・学習指導要領・生徒指導提要の流れに沿って考えてみたいと思います。
目次
1. 「確かな学力」を構成する8項目
![新学習指導要領の基本的なねらいは[生きる力]の育成。各学校では,家庭,地域社会との連携の下,[生きる力]を知の側面からとらえた[確かな学力]育成のための取組の充実が必要。](https://h2o.or.jp/cms/wp-content/uploads/2026/02/確かな学力1399947_001.gif)
【出典:文部科学省「1 新学習指導要領や学力についての基本的な考え方等」平成15年10月7日】
まず、確かな学力を構成する力は、
①思考力 ②判断力 ➂表現力 ④問題解決能力 ⑤学ぶ意欲
⑥知識・技能 ⑦学び方 ⑧課題発見能力
の8項目です。この8項目は、文科省が2000年代から示してきた学力観であり、現在の学習指導要領の基盤になっています。
ここで大切なのは、「知識・技能」は学力の土台にすぎず、学力の完成には思考力・判断力・課題発見・学び方・意欲といった「活用の力」が不可欠です。
児童生徒が自分で考え、判断し、表現し、課題を見つけ、解決しようとする。その一連の営み全体が「確かな学力」です。
2. 法的根拠:学校教育法30条2項
では、なぜ私たちはこの確かな学力を構成する8項目を育てる必要があるのでしょうか。その根拠は、学校教育法第30条2項にあります。条文にはこう書かれています。
基礎的な知識・技能を習得させ、それらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力 その他の能力を育み、主体的に学習に取り組む態度を養うことに特に意を用いる。
この条文を、確かな学力を構成する8項目に対応させると、次のようになります。
「知識・技能」→ ⑥
「思考力・判断力・表現力」→ ①②③
「その他の能力(課題解決に必要な能力)(※1)」→ ④⑦⑧
「主体的に学習に取り組む態度」→ ⑤
つまり、確かな学力を構成する8項目は、法律が求める学力そのものなのです。私たちが日々の授業で育てようとしている力は、法律の理念としっかりつながっています。
※(1)「その他の能力」→④⑦⑧
なぜ「⑤ 学ぶ意欲」は「その他の能力」に入らないのか?
・法律では「その他の能力」と「主体的に学習に取り組む態度」を別々に書いている
・「主体的に学習に取り組む態度」は、法令・学習指導要領の両方で独立した力として位置づけられている
3. 学習指導要領・次期学習指導要領との接続
現行の学習指導要領では、育てるべき力を次の3つに整理しています。
- 知識・技能
- 思考力・判断力・表現力
- 学びに向かう力・人間性等
この3つの柱は、確かな学力を構成する8項目をより整理・統合した枠組みです。
そして次期学習指導要領の議論でも、「資質・能力の3つの柱の継続」「『生きる力』の理念の深化」が明確に示されています。つまり、「確かな学力」は、これからの教育の軸であり続けるということです。
4. 国立教育政策研究所(国研)が示す学力観
国研は、学力を次の3層で整理しています。
- 見える学力(知識・技能)
- 見えにくい学力(思考力・判断力・表現力)
- ほとんど見えない学力(意欲・粘り強さ・学び方)

【図:見える学力・見えにくい学力・ほとんど見えない学力】
授業改善で大切なのは、「見えにくい学力」「見えない学力」をどう育てるかという視点です。テストでは測定しにくいが、学習を左右する重要な力です。
テストで測れる力だけを育てていては、子どもたちの未来を支える学力にはなりません。むしろ、授業の中での「問い」「対話」「振り返り」が、見えにくい学力を育てる鍵になります。
5. 生徒指導提要が示す「学び」と「生徒指導」の一体性
生徒指導提要では、「学び」と「生徒指導」は切り離せないものだと示しています。
確かな学力を構成する8つの要素は、授業だけで育つわけではありません。日々の「子どもとの関わり方」「声かけ」「学級経営」「友達関係づくり」といった生徒指導の場面の中でも、「学ぶ意欲」「課題を見つける力」「学び方」などの力は確実に育っていきます。つまり、生徒指導は学習指導と同じく資質・能力の育成を目的とした教育活動です。生徒指導そのものが子どもの学びを支える大切な営みであり、授業と生徒指導は一体となって子どもの成長を支えているのです。
6. 授業で確かな学力を構成する8項目を育てるための実践ポイント
ここでは、毎時間の授業で確かな学力を構成する8項目を育てるための具体的なポイントを示します。
① 思考力を育てる
「授業の最初に『問い』を置く」、「どうしてそう思ったの?」と理由を聞く、「別の考え方はある?」と複数の視点を促す。「答えよりも、考えた道のりを大切にしよう」と声掛けをする。
② 判断力を育てる
「2つの資料を比べて選ばせる」「解き方を選ばせる」「自分の考えを選択させる」「どちらがよいと思う?その理由も教えて」と声掛けをする。
③ 表現力を育てる
「ペアで説明する時間をつくる」「1分間スピーチ」「ノートに図や言葉でまとめる」「自分の言葉で説明してみよう」と声掛けをする。
④ 学ぶ意欲を育てる
「小さな成功体験をつくる」「できたところを具体的にほめる」「選べる課題を用意する(選択課題)」「ここまでできたね。次はどれに挑戦する?」と声掛けをする。
⑤ 知識(理解)を育てる
「ポイントを絞った説明」「図や具体物を使った理解」「ICTで視覚的に示す」「今日の大事なポイントはここだよ」と声掛けをする。
⑥ 技能(操作・方法)を育てる
「反復練習(短時間でOK)」「ステップ学習(易→難)」「個別の補充課題」「できるようになるまで一緒に練習しよう」と声掛けをする。
⑦ 学び方(学習方法)を育てる
「ノートの取り方を教える」「調べ方を教える」「振り返りの書き方を教える」「どうやって調べたらいいかな?」と声掛けをする。
⑧ 課題発見能力を育てる
「気になることを付箋に書かせる」「友達の意見を聞いて疑問を広げる」「生活や社会の問題と結びつける」「この中で、もっと調べたいことはどれ?」と声掛けをする。
理科の授業では、学力を構成する8項目を育てるための実践ポイントは次のようになります。
① 思考力 → 観察・実験の結果から考える力
② 判断力 → 比較し、選び、結論を導く力
➂ 表現力 → 図・言葉・式で説明する力
④ 学ぶ意欲 →「もっと知りたい」と思う気持ち
⑤ 知識 → 理解の概念、用語、法則
⑥ 技能 → 観察・実験の方法、器具の扱い方
⑦ 学び方 → 調べ方、記録の仕方、まとめ方
⑧ 課題発見能力 →「なぜ?」と問いを作る力
7. 授業の流れに「確かな学力を構成する8項目」を自然に組み込む方法
明日からの授業ですぐに実践できるように、1時間の授業の流れに落とし込むと次のようになります。これは、どの教科でも応用可能です。
【授業の流れと育つ力】
① 導入(5分)
• 問いを提示 →「思考力」
• 予想を立てる →「判断力」
② 展開(30~40分)
• 調べる →「学び方」
• 話し合う →「表現力」
• 比べる →「判断力」
• まとめる →「思考力」・「表現力」
③ まとめ(5分)
• 今日の学びを振り返る →「学ぶ意欲」
• 次の課題を見つける →「課題発見能力」
• 個別課題(必要に応じて)
• 基礎 →「知識・技能」
• 発展 →「思考力」・「判断力」
確かな学力は、「生きる力」の中でも「知の部分」を支える大切な土台です。子どもたちが自分の人生を、自分の力で切り開いていくための基盤になります。そして「確かな学力」は、特別な授業だけで育つものではありません。毎日の授業の中で積み重ねられる、小さな工夫と経験の集まりです。たとえば、「1つの問いかけ」「1回の話し合い」「1分間の振り返り」「1つの選択課題」「1つの成功体験」こうした小さな場面が、子どもの学力を大きく伸ばしていきます。
学習指導要領、次期学習指導要領、生徒指導提要、そして国立教育政策研究所が共通して示しているのは、「子どもが主体的に学び、考え、表現し、協働し、学び続ける力を育てる教育」です。つまり、子どもが自分で学びをつくり出し、仲間と関わりながら成長していくことこそが、これからの教育の中心にあるのです。
