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0023 今、教師に求められていること|VUCAの時代だからこそ、こんな授業・こんな学級経営をしたい

1. VUCAって何だろう?なぜ今、教育で語られるのか

最近、研修や教育関係の資料で「VUCA(ブーカ)」という言葉を見かけることが増えました。難しそうに聞こえますが、実はとてもシンプルな言葉です。VUCAとは、

変化が激しく(Volatility)、
先が読めず(Uncertainty)、
物事が複雑で(Complexity)、
正解が一つに決まらない(Ambiguity)

時代を表します。
この言葉はもともと軍事や経営の世界で使われていましたが、今では教育でも重要なキーワードになっています。なぜなら、児童生徒たちが生きる社会そのものがVUCA化しているからです。たとえば、

  • SNSによる人間関係の急な変化
  • 不登校やいじめの背景の複雑化
  • 家庭環境の多様化
  • AI・DXによる仕事の変化
  • 地球規模課題の深刻化

こうした変化は、学校現場にも直接影響を与えています。文部科学省の「教育振興基本計画」でも、社会の現状として「VUCAの時代」が明記され、教育の方向性を考える前提として扱われています。

また、国立教育政策研究所(以下、国研)も、全国学力調査や教育課題の分析を通して、「予測困難な時代に必要な資質・能力」を繰り返し示しています。つまりVUCAは、単なる流行語ではなく、現行学習指導要領・生徒指導提要・次期学習指導要領の議論を貫く「時代認識」なのです。

2. 学習指導要領は、なぜ「主体的・対話的で深い学び」を求めるのか

現行の学習指導要領(2017年改訂)は、はっきりと「予測困難な時代」を前提に作られています。中教審の平成28年答申でも、次のように述べられています。

この「予測困難な時代」という表現は、まさにVUCAの本質です。

学習指導要領が示す「資質・能力の三つの柱」
 • 知識・技能
 • 思考力・判断力・表現力
 • 学びに向かう力・人間性等

は、VUCA時代に必要な力を体系的に整理したものです。さらに、

 • 主体的・対話的で深い学び
 • カリキュラム・マネジメント
 • 探究

といったキーワードは、VUCA時代への教育的な応答として位置づけられています。

■ なぜ「主体的」が必要なのか

 正解が一つに決まらない時代には、自分で問いを立て、自分で学び続ける力が欠かせません。

■ なぜ「対話」が必要なのか

 複雑な課題は、一人では解決できません。他者と協働し、視点を広げる力が求められます。

■ なぜ「深い学び」が必要なのか

 知識を覚えるだけでは、変化に対応できません。知識をつなげ、意味づけ、応用する力が必要です。

これらはすべて、VUCAの時代に必要な力と直結しています。

3. 生徒指導提要は、なぜ「発達支持的生徒指導」を強調するのか

2022年改訂の『生徒指導提要』は、VUCA時代の児童生徒の育ちを支えるために大きく再構成されました。生徒指導提要では、児童生徒を取り巻く環境について次のように述べています。

社会の急激な変化
児童生徒の困難の複雑化
SNS・ネットトラブルの増加
不登校の増加
家庭環境の多様化

これらはすべて、VUCAの特徴そのものです。そのため生徒指導提要は、従来の「問題行動への対応」中心の生徒指導から、「発達を支え、予防し、早期に気づき、チームで支える生徒指導」へと大きく舵を切りました。

■ 発達支持的生徒指導

 児童生徒の「よさ・可能性・社会的資質能力」を伸ばす視点。

■ 未然防止・早期発見・早期対応

 複雑化した課題は、表面化してからでは遅い。日常の小さなサインを丁寧に拾うことが重要です。

■ チームとしての生徒指導

 一人の教師では抱えきれない課題が増えています。学年・校内・関係機関と連携することが前提です。

■ 児童生徒の権利・参画

 VUCAの時代は、児童生徒自身が学級や学校の一員として参画することが重要です。

これらはすべて、VUCA時代の学級経営に直結しています。

4. 国立教育政策研究所(国研)が示す、「これからの学び」の方向性

国研は、全国学力調査や教育課題の研究を通して、「これからの時代に求められる学力」を分析しています。近年の報告では、次のようなポイントが特に強調されています。

― 思考力・判断力・表現力の重要性

 単に知識を覚えるだけでなく、状況に応じて活用し、自分の考えを表現する力が重視されています。

― 自己肯定感や学びに向かう力の低下

 子どもたちが「自分はできる」と感じにくくなっていることが、学習意欲の低下につながっています。

― ICT活用の格差

 端末の使い方や家庭環境によって、学びの質に差が生まれていることが課題になっています。

― 読解力の低下と情報の取捨選択の難しさ

 情報量が増える中で、必要な情報を読み取り、整理する力が弱まっていると指摘されています。

― 協働的な学びの必要性

 他者と対話しながら学ぶことが、問題解決力の向上につながるとされています。

これらはすべて、変化が激しく予測困難な「VUCA時代」における教育課題と一致しています。
国研は特に、「知識を活用し、状況に応じて考え、他者と協働して課題を解決する力」を重視しており、これは学習指導要領が示す方向性とも完全に重なっています。

5. 次期学習指導要領はどこへ向かうのか

次期学習指導要領(令和9年改訂予定)に向けた議論が、2024年12月の中教審への諮問をきっかけに本格的に始まりました。特別部会の資料や議事録を見ると、次のような言葉が何度も出てきます。

これらのキーワードから、次期学習指導要領は、現行の流れを引き継ぎつつ、変化の激しい時代に対応できる力をさらに強める方向です。特に次のような領域は、今後さらに重視される可能性が高いと言えます。

これらは、不確実な時代を生きる児童生徒にとって欠かせない力であり、学校教育全体で育てていくことが求められています。

6. VUCAの時代に求められる授業と学級経営

学習指導要領、生徒指導提要、国立教育政策研究所の報告、そして次期学習指導要領の議論では、共通して「予測困難な時代を生き抜くための資質・能力の育成」が強調されています。しかし、政策文書はどうしても抽象度が高く、経験の浅い教師には「明日の授業でどうすればいいのか」が見えにくいことがあります。

そこでここでは、政策文書の理念を現場の言葉に置き換え、授業と学級経営で大切にしたいポイントを整理します。

(1) 授業で大切にしたいこと

① 正解より「納得解」をつくる

学習指導要領は「思考力・判断力・表現力」を重視し、国研も「多様な解決があり得る課題に向き合う力」を求めています。

VUCAの時代は、答えが一つとは限りません。だから授業では、どんな根拠や考え方でその答えにたどり着いたのかを大切にします。児童生徒が「自分の言葉で説明できる」ことが、学びの力になります。

② 対話を中心にする

生徒指導提要は「対話を通した関係づくりと学びの深化」を強調しています。

友達の意見を聞き、自分の考えを言葉にする経験は、これからの社会で必要な協働・合意形成の力につながります。対話は「正解を探す時間」ではなく、考えを広げたり深めたりする時間として位置づけます。

③ 探究的な学びを取り入れる

国研の報告では「問いを起点とした学び」が重要とされています。

「問いを立てる → 調べる → 試す → 失敗する → また考える」というプロセスそのものが、VUCA時代の学びの中心です。
結果よりも、試行錯誤のプロセスを味わうことを大切にします。

④ ICTを思考の支えとして使う

学習指導要領は「情報活用能力」を学習の基盤と位置づけています。ICTは、情報を集めたり比べたり表現したりするための道具です。「ICTを使うこと」が目的ではなく、学びを深めるためにICTを使うという視点を持ちます。

(2) 学級経営で大切にしたいこと

① 児童生徒の「安心基地」をつくる

生徒指導提要は「安心・安全な学級づくり」を生徒指導の基盤としています。
安心があるからこそ、児童生徒は挑戦できます。失敗を笑わない、違いを受け入れる、そんな雰囲気づくりが学級の土台になります。

② 児童生徒の声を聴き、学級を「共につくる」

次期学習指導要領の議論でも「参加・協働」がキーワードになっています。
VUCAの時代は、教師がすべてを決めるやり方ではうまくいきません。児童生徒が学級づくりに参加することで、学級はより強く、より豊かになります。「児童生徒とつくる学級経営」が前提になります。

③ チームで支える

生徒指導提要は「チーム学校による支援」を強調しています。児童生徒の課題は複雑で、一人の教師だけでは抱えきれないこともあります。学年・校内・関係機関とつながりながら、チームで児童生徒を支えることが前提になります。

④ 小さなサインを見逃さない

国研の「不登校に関する調査」でも、早期発見・早期対応の重要性が繰り返し示されています。表情、つぶやき、休み時間の様子など、日常の小さな変化に気づくことが、早期対応につながります。「なんとなく気になる」を大切にし、記録し、共有することが重要です。

7. VUCAの時代に、教師が大切にしたい3つの姿勢

① 「全部わかっていなくていい」
  教師も児童生徒と同じように学び続ける存在です。完璧である必要はありません。

② 「児童生徒と一緒に学級をつくる」
  教師が一方的に管理するのではなく、児童生徒と協力してクラスを育てていく姿勢が大切です。

③ 「挑戦と対話を大切にする」
  失敗を恐れず挑戦し、よく話し合える教室が、児童生徒たちの未来を支えます。

VUCAという言葉は難しく見えますが、実は「今の児童生徒たちが生きている世界の特徴」を表しているだけのシンプルな考え方です。学習指導要領、生徒指導提要、国研の研究、そして次の学習指導要領の議論も、すべてこのVUCAの時代を前提にしています。だからこそ、授業も学級経営も、

• もっと人と人とのつながりを大事にし、
• もっと対話を増やし、
• もっと探究する学び

へと変わってきています。

教師にとっても、「難しい理論」ではなく、「児童生徒たちの今に合った教室づくりのヒント」として受け取っていただける内容となっています。

(1) VUCAとは

VUCA(ブーカ)は、今の社会を表すキーワードで、次の4つの頭文字を合わせた言葉です。

• Volatility(変動性) — 物ごとがすぐ変わり、変化のスピードがとても速いこと。
• Uncertainty(不確実性) — これから何が起きるのか予測しにくいこと。
• Complexity(複雑性) — いろいろな要素が絡み合い、原因や仕組みがわかりにくいこと。
• Ambiguity(曖昧性) — はっきりした答えがなく、解釈が分かれること。

まとめると、「変化が速く、先が読めず、物ごとが複雑で、正解がひとつではない世界」という意味です。

これはビジネスだけでなく、学校にもそのまま当てはまります。児童生徒たちの価値観は多様になり、情報はあふれ、社会の変化はますます速くなっています。そのため、「こうすれば正解」という道筋が見えにくくなっているのが今の教育の現実です。

■ なぜ教育でVUCAが大事なのか

  • 児童生徒たちが生きる未来は、今よりもっと変化が激しくなる。
  • だからこそ、対話する力・考える力・協力する力・挑戦する力が必要になる。
  • 学習指導要領や生徒指導提要も、このVUCAの時代を前提に作られている。

つまりVUCAは、難しい専門用語ではなく、「子どもたちの今と未来を理解するための大事な視点」と言えます。

(2) レジリエンス(折れにくさ、立ち直る力)とは何か

レジリエンスは、困難・失敗・ストレスに出会ったときに、気持ちを立て直し、前に進む力です。特別な才能ではなく、だれでも育てていける「心の筋力」のようなものです。

  • 失敗しても「もうダメだ」ではなく、「どうすれば次はうまくいくかな」と考えられる
  • つらい出来事があっても、時間をかけて気持ちを回復できる
  • 完璧でなくても、自分を責めすぎずに続けられる

こうした心の動きがレジリエンスです。

■ 教員にとってレジリエンスが大切な理由

学校現場は、予想外のことが毎日起こります。若い教師ほど、次のような場面に出会いやすいと思います。

  • 授業が思い通りに進まない
  • 生徒の反応が薄くて落ち込む
  • 保護者対応で不安になる
  • 先輩のようにできず、自分を責めてしまう

レジリエンスがあると、こうした出来事に押しつぶされず、「経験を学びに変える」ことができます。

■ レジリエンスを支える3つの要素

若い教師にも実感しやすいように、シンプルに3つに整理します。

① 自分の気持ちに気づく力
 「今、私は緊張しているな」「落ち込んでいるな」と気づけると、対処がしやすくなります。

② 助けを求めたり、相談したりする力
 レジリエンスは「ひとりで頑張る力」ではありません。同僚や先輩に頼ることも大切な力です。

③ できたことに目を向ける力
 うまくいかなかった部分だけでなく、「今日はここができた」と小さな成功を拾う習慣が心を強くします。

■ 教師が今日からできるレジリエンスの育て方

「今日のよかったこと」を1つだけ書く

困ったら、早めに誰かに相談する

完璧を目指さず、「7割でOK」と考える

休むことを「逃げ」ではなく「整える時間」と捉える

どれも小さなことですが、積み重ねると確実に心が折れにくくなります。

■レジリエンスは生まれつきではなく、育てられる力

教員として経験を重ねるほど、自然とレジリエンスは強くなっていきます。そして、教師自身がレジリエンスを育てていく姿は、児童生徒にとっても大切なモデルになります。

(3) 社会的・情動的スキル(SEL)とは

児童生徒が「自分の気持ちを整え、周りの人とうまく関わり、よりよい行動を選べるようになる力」のことです。学力のように点数では測りにくいものですが、学校生活の安心感や学びの姿勢に深く関わるため、世界中で重視されています。

■ 社会的・情動的スキル(SEL)が育てる5つの力

教師が日々の指導で扱っている内容と重ねて読めるように整理します。

自己認識 — 自分の気持ちや得意・苦手に気づく力
  例:いま緊張している、これは苦手だけど工夫すればできそう…など。

自己管理 — 気持ちや行動を落ち着かせたり、目標に向かって続けたりする力
  例:イライラしたときに深呼吸する、時間を決めて取り組む。

社会的認識 — 相手の気持ちや立場を想像し、違いを尊重する力
  例:友だちが困っている理由を考える、意見の違いを受け止める。

関係構築スキル — 協力したり、話し合ったり、トラブルを解決したりする力
  例:役割分担を相談する、ケンカのときに気持ちを伝え合う。

責任ある意思決定 — 自分や周りにとって良い行動を選ぶ力
  例:宿題を先に終わらせる、みんなが安心できる行動を選ぶ。

■ なぜ学校で社会的・情動的スキル(SEL)が大切なのか

教師の視点に合わせて、学校現場での「効き目」がイメージしやすい形でまとめてみます。

学びの土台が安定する
  気持ちが落ち着くと、授業への集中や挑戦する姿勢が育ちやすくなります。

いじめ・トラブル・不登校の予防につながる
  自分と相手の気持ちを理解できると、関係のこじれが減り、安心して過ごせる環境が整います。

学級経営がスムーズになる
  児童生徒同士が話し合える、気持ちを言葉にできるようになると、教師の負担も軽くなります。

これからの社会で必要な力
  AI時代には、協力・共感・柔軟な判断といった「人と人をつなぐ力」がより重要になります。

■ 日常の指導の中で育てられる社会的・情動的スキル(SEL)

特別な時間を設けなくても、普段の学級経営の中で自然に育てられます。

  1. 朝の会で「今日の気持ち」を言葉にする
  2. トラブルのときに「どうしてそう思ったの?」と気持ちを整理する
  3. グループ活動で役割を相談する
  4. みんなが納得できるルールを一緒に決める

こうした小さな積み重ねが、SELの育ちにつながります。

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